ヒッププロテクター開発物語

このピーチパンツは、2006年5月に発売して以来、好評です。
何よりもマスコミでの注目度が非常に高く、すでに朝日新聞(2006年4月17日)、日刊工業新聞(2006年5月8日)、産経新聞(2006年6月21日)、文化放送「吉田たかよし プラス!」(2006年6月28日放送)で取り上げていただいています。
その反響も大きく、掲載されたり、放送されるとしばらくは会社の電話が鳴りっぱなしになりました。 何でこんな下着を作ることにしたのか、その経緯について有限会社トミ 代表の松本富子がお話します。


ピーチパンツを作るきっかけ

「ワコールデザイン課に勤務していた頃」 (前列一番左がStudio Tomi代表 松本富子)

「ワコールデザイン課に勤務していた頃」
(前列一番左がStudio Tomi代表 松本富子)

ピーチパンツを作るきっかけは10年以上も前にさかのぼります。そのころ、私はある下着メーカーでデザイナーをしていました。私がデザインしていたのは、皆さんが日常つけているごく普通の下着です。

私は下着のデザイナーという仕事に自信を持っていましたので、「下着のことは何でも知っている」と思い込んでいました。

そんなある日、主人の母から、「高齢者用の下着を買ってきて」と頼まれたのです。私はそのときは深く考えずに下着を探しました。ところが、そのうち、すごくがっかりしてしまいました。下着の店を何店も訪ねたのですが、高齢者用の下着、と言うものは存在しない、と言うことが分かったのです。あるのは、介護用の下着だけでした。私のイメージでは、下着というのは若い人向けの下着もあれば、高齢者用の下着もあるはずだ、と考えていました。

私はプロの下着デザイナーとして、仕事をしているわけですから、当然そんなことは分かっているはずだったのです。ところが、世の中、そうはなっていないと言うことに気が付き、大きなショックを受けすっかり自分の自信を無くしてしまいました。

ちょうどそんなときに、自分の親が転倒して骨折してしまいました。それが自分の人生の大きな転機となり、ある大手の医療製品の会社に契約社員として入社しました。ある学会に参加していて、高齢者の場合、転倒骨折がきっかけとなって寝たきりになってしまうケースが非常に多い、ということを聞き、自分の親も寝たきりになってしまったらどうしよう、と真剣に心配し悩みました。幸い、私の親は寝たきりにはなりませんでした。

このことがきっかけとなって、私は「介護」と言うことに強い関心を持つようになりました。介護ヘルパー2級の免許を取り、実際に何人も介護した結果、介護の大変さを知ることが出来るとともに、高齢者用の下着の必要性を強く感じていました。

そして、大手医療品メーカーを退職し、02年から「高齢者用の下着」開発を自分だけで始めることにしたのです。それは、「高齢者が安心してきられる下着を作りたい!」という強い思いからです。


ピーチパンツ開発の過程

翌2003年、私はついに念願の高齢者用下着を開発し、「生き活きパンツ」と言う名前をつけました。大腿骨頸部(股関節)に転倒骨折防止用の衝撃吸収パッドを取り付け、パッド自体を取り外し可能にし、立体裁断で身体にフィットしやすいようにしたのが特長です。

この「生き活きパンツ」を作ってからあちこちで商品説明をしましたが、「生き活きパンツ」を開発したことが評価されて、板橋区、北区、東京都が協力して支援する”KICCプロジェクト”に参加させていただくことになりました。

kicc

“KICCプロジェクト”というのは、「北区/板橋区に健康・医療・福祉関連施設、光学機器、理化学機器、製薬など高度な技術を持った研究開発型企業・知識集約型産業・研究機関、あるいは人材など、多様な地域資源が存在しています。これらの地域資源を総合的かつ最大限に活用して、健康・医療・福祉関連産業の活性化を推進」(KICCプロジェクト推進委員会資料より抜粋)するためのプロジェクトです。

スタジオトミは、このKICCプロジェクトに参加し、さまざまなバックアップを受けています。特に、KICCプロジェクトの支援によって、東京都産業研究所との共同開発に選ばれ、1年間開発に専念することができました。

東京都産業研究所との共同開発では、プロテクターの改良、下着の改良で多くの協力を得ることができました。
このときの改良項目は次の4項目です。

1.装着時の快適性の向上
従来製品では、装着の際、硬く痛い、きつい、蒸れるといった不快感を感ずる方がいらっしゃいました。

2.プロテクターの薄型化、形状の改良
加齢と共にまるくなってしまった腰周りが、より膨らんで見栄えが悪い、と言う意見がありました。

3.パンツ着脱の容易化
トイレの時に着脱が煩雑でした。

4.ファッション性が高く、ヒップがしまって見える美尻効果を出す。
従来の介護用品にありがちなデザインではなく、お洒落な下着を目指しました。

以上のような開発コンセプトを作り、開発に取り組みました。

特に、開発に時間を費やしたのは、プロテクターです。従来の問題点であるプロテクターの素材選びからスターとしました。今までのプロテクターが、ゲル系素材をつかっていましたが、ゲル系素材は、価格が高く重いという欠点がありました。

最適なプロテクターの位置決め

最適なプロテクターの位置決め

まず素材選びでは、ゴム系、低反発ウレタン系、EVA(エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、発泡ポリエチレンから一つ一つテストしていきました。

また、同じ素材でも、形状の違い、硬さ、厚さの違いで衝撃吸収度が変わります。東京都産業研究所で一つ一つテストし、最終的に発泡ポリエチレンをプロテクターの素材にすることにしました。

次に70歳の方のダミー人形を使い、実際に装着したときに美しいヒップラインになるようにプロテクターを粘土造形していきました。より、美しくみせる為、本体であるパンツは、高級売り場に展示しても美しいと思わせるようなコンセプトからデザインをスタートしました。

20代、70代との装着比較

20代、70代との装着比較

また、快適性を追求をするため、最も肌に近くて、絹を思わせるような素材を求めて何社もの素材メーカーをまわりました。

パターンに関しては、「日本の人体計測データ」で取り上げた、高齢女性の平均データと70代のヌード ダミーを用いての立体裁断で、より快適に着用できるかをスタッフと研究しました。勿論20名の女性に実際つけて頂き評価を頂きました。

試作品ができてから、次は、転倒した場合にプロテクターがどれぐらいの衝撃吸収性能を持っているかのテストです。プロテクターありとなしとでは、衝撃吸収度合いが大きく違うことが分かりました。

プロテクター有無での衝撃度合いの比較

プロテクター有無での衝撃度合いの比較

他社の製品と衝撃吸収度合い比較して見ましたが、他社は大手メーカーで多額の研究費を費やし、多数の研究者を投入して開発した製品であるにもかかわらず、私たちのプロテクターは他社の最上クラスとほぼ同等の性能がある、ということが分かりました。


ようやくピーチパンツを発売

完成したピーチパンツ

このような開発を2006年までの1年間行い、ようやく発売にこぎつけることが出来ました。

最後に、どんな名前をつけようか、と言うことを段階で、東京都産業研究所からは20案ほどの候補を頂きました。 私としては、桃のようなはりのある美尻効果を強調したいと考えて、「ピーチパンツ」と言う名称をつけることにしました。

2006年5月2日、ついに新製品発表にこぎつけました。”KICCプロジェクト”として具体的な成果となった初の商品として”KICCプロジェクト”が報道発表会を開催してくださり、会場でピーチパンツが非常に注目されました。

たぶん、日本全体が高齢化する中で、このような高齢者用の下着と言うものの必要性を十分に認識していただいたためでしょう。新聞社やラジオ局の関心が非常に高く、熱心に取材してくださったために、冒頭に書きましたように朝日新聞、産経新聞、日刊工業新聞、文化放送で紹介されることになったわけです。